朋田菜花の「ときには森を抜ける風の音のように」

forest2006.exblog.jp ブログトップ

カテゴリ:詩集 昭和の森の子どもたち( 2 )

 「私の瞳は鳶色のガラス玉ではない」

 




 海からの風はどっちに向かうのだろうと

 抽象の時空に格納してある風切羽にそっと問いかける

 木立を抜け吹き降ろす風は海霧に出会えるのだろうかと

 日がな一日眺めているガラス窓越しの空に問う



 あの山道で転落して

 死に損なってサイボーグの足になり

 癒えていく時間の中で私は違う座標を歩き始めた

 私は今確かに

 私を支える見えないもう一翼の「つばさ」を知覚している

 生死の峠を越えたそのときですら

 その白い暖かな片翼は

 そっと私の魂の隣に寄り添っていた





 つぎに目指す地点を見据えて

 ゆるやかに歩き始めたこの夜

 ロボットのようなぎこちない歩行訓練を

 天空の蒼月が見守っている







 もう私の瞳はただ透明なだけの鳶色のガラス玉ではない





____________________________
旧作ですがたぶんまだこのブログには載せてなかったと思います。
本サイト「森のうた 森のこえ」に掲載してあるWEB詩集「昭和の森の子供たち」
に収録。
旅先で突如左足を骨折して、1か月市民病院の外科病棟に入院し、退院後
もギプスの足での歩行を余儀なくされたときの想いをつづったものです。
ふつうに歩いたり走ったりできるのか、毎日不安でした。
病院から一歩も出られない生活もとても辛かった‥‥
心だけが白い鳥になって、大空をはばたいていた‥‥‥

もうあれから10年が過ぎたのですね^^
あのときのことがなければ、山口県で暮らすことにはならなかったかも^^

BGMをいただいてアップしたバージョンが
こちら>>>
から聴けます。
[PR]
by forest_poem | 2013-06-11 03:03 | 詩集 昭和の森の子どもたち

Archive 詩集 昭和の森の子どもたち 「午前0時の森」

b0088524_0441535.jpg



「午前0時の森」




 気がついたら青い森の深奥にたたずんでいた

 時刻は午前0時

 熱くなりすぎた流水回路は

 放水弁への命令系統をショートさせたようだ



 昨日時を亡くした街で垣間見たジオラマ

 酒場に点ったランプ 

 鍵を失くした書生 翳りの中に溺れる女 

 猥雑な嬌声 消せない矜持 渦巻く予感 羨望と嫉妬

 だが、おおかたの期待を裏切るように

 二人は寡黙を貫いた






 隣室から響く甲高い笑い

 激しい喉の渇き

 めまいのような感覚 熱い波動

 気がついたら 僕は 

 書生になりかわりあの女を抱いていた

 乱れた髪、狂おしげな荒いい息、冷たい肌 

 見上げた女の瞳が陶然と輝きながら

 急に僕の腕の中で姉の顔に変容する 

 沸騰する思考

 姉 ・・・ 自分に姉などいなかったはずだ

 そこで夢だと気付き夜半の臥所にはたと身を起こす

 窓の外は閑まりかえった星月夜



    



 「早く早く・・・急がないともう旅立ってしまう」

 頭の中に鳴り響いているその言葉の

 正確な意味すらわからぬままに

 僕は家を抜け出し

 月明かりの森の中央まで憑かれたように歩いた
 





 ひときわ高い樅の梢の上に浮かんでいたのは

 月と同じ形の球体

 にぶい光をまといながら中空に輝く夢幻体



 突然球体は二つに割れ 

 中から濃度の濃いガラス質の森が現れた

 (いや、森のようなものというべきだろうか・・・)

 ウバメガシ シラカバ ダケカンバ アカマツ ・・・

 に、似ているようにも 

 虹色ガラスでできた未知の植物形生命体にも見えた



 やがてぽっかりとが二つに割れた半球系の空中浮遊島から

 一本の光の川が流れはじめた

 湧き出す流砂にも見えるその輝く粒子は

 森の中央広場にあふれ

 あたり一面を覆い尽くした

 空は漆黒なのにここだけ、黄金色(きんいろ)の真昼






 その 砂の流れを遡るように

 球体にむかって突き進んでいく者がいる



 あの書生だ 

 そして男に静かに手をひかれているのはあの女だ



 さっきまで狂おしく夢魔の中で抱いた氷の肌

 不意に左の胸にいいようもない痛みが走る

 次の瞬間 僕は 声にならない声で叫んでいた



 不意に振り返り僕を認め目を見開いた彼女は

 男の手をふりほどき こちらに走り寄ろうともがいたのだが

 時すでに遅く

 球体は今度は恐ろしい勢いで砂を吸い上げて行き

 二つの半球は小さな宙に浮かぶ森を呑みこみ

 内側に閉じ始めた



    



 そのときだ 

 僕は球形体の中の森が歌う声を聴いた

 ウバメガシ シラカバ ダケカンバ アカマツ ・・・

 によく似た

 虹色ガラスの未知の植物形生命体たちは

 祈るように歌っていた

 空気をふるわす歌声と音を超えたイオン波とで

 燃え上がる生命の歌をうたいあげながら

 僕のいる森と大地を揺らした

 だが、僕の心にはそれ以上に

 ひたむきな黒い瞳の彼女の叫び声だけが

 森のうたも波動も超え脳内で鳴り響いてた



 やがて 激しい風と目もくらむ光の中

 小さな森を呑み込んだ球体は消え去り

 僕は大地にひざまづいて ただとめどなく涙を流し続けた






 朝が近づいている

 東の空からしのびやかに染まりはじめたオレンジ色は

 僕がなにか とても大切なものを失くしてしまったことを

 静かに告げていた

 そしてそれは

 終わることのない 新たな旅のはじまりでもあった





 



   (2002年トノモトショウ再生プロジェクト参加作品)

[PR]
by forest_poem | 2006-11-27 00:46 | 詩集 昭和の森の子どもたち
line

創作モード炸裂。ファンタージュの森を生く。


by forest_poem
line
クリエイティビティを刺激するポータル homepage.excite
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30