Archive 「Innocent Green」
2008年 04月 15日
「Innocent Green」
どこへ行くにも
小高い丘をいくつか越えねばならない
そんな街でした
青空と丘の境目には給水塔が建ち並び
古い公団アパートを縫って滅びかけた石段
光輝く水色の街にも見えたし
影におおわれた灰色の廃墟にも見えました
路線バスはゴトゴトと丘を縫って走り
あの給水塔を越えた向こうからは青空と雲の中を
走るのではないかとさえ思いましたが
そんなことができるのは
群れ飛ぶ鳩たちぐらいのもので
私たちはといえば
学生鞄に詰め込んだ
何冊かの辞書をどこかに売り払って
中也と同じマントを手に入れたいとか
煙突から昇る煤煙にはどのぐらいの毒素が
まだ残されていて
私たちは死に近づいているのか
それとも生命の階段を登りつめているのか
丘をのぼりおりするバスに揺られるごとくに
しだいにわからなくなっていくのでした
あの頃母は自分の抱えた病に勝つことができず
何度も死にたいと打ち明けました
すまないね、すまないねと言いながら
だけれども死ぬなんてこと許されないと
私たちのために生きてくださいと
何度も母にそう告げました
何度も何度も、そう告げました
あの公園まで昇れば
光る海を見おろすことができました
信じることができたのは
輝く海の青さと
木々の蒼さ
塞がれた現実の中で逃げる道など無く
失われかけた夢を棄てきれず
空を飛ぶ翼はなくても
押しつぶされそうな魂抱えても
それでも傷口だけを見つめずに
再び生きていけると
そう思えたのは
じっと待っていればやがて季節が巡り
緑の葉が枯れ落ちた梢にも
再び花が咲くのだと
この約束の地に教えてもらったから
ふるさとの大きな樟(くす)の樹よ
広がる桜の森よ
今も変わらずにいますか
今も秋には南天の実を鳥たちがついばみ
春にはおぼろな桜色に包まれる照葉樹の森は
変わらずにそこにありますか
28番線のバスに揺られて会いに行きます
Innocent Green 失われることない青い森は
いつも今もこの心の中に
つめたい泉のわく あの光と影の森
Innocent Green 失われることなく Ever Green
いつか夢に傷ついたとしても
帰る場所はたったひとつ あの永遠の森
またこの場所から ふたたび 歩き始める
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*ふるさとの街への想いをこめてふたたび^^
by forest_poem
| 2008-04-15 05:17
| 詩 未分類