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即興詩「太陽の塔の裏側で」



  「太陽の塔の裏側で」



 赤い月を見ていた
 
 今日は皆既月食だね

 君のくちずさむ小さい歌声がふときこえた

 太陽を背中に

 私たちの住む地球の影が

 あの赤い月に映り込んでいるんだよ



 わたしはいつか目指すと言った永遠の都への

 片道切符を手にまだためらったままこの海辺にたたずんでいた

 でも、ついに明日旅立つことに決めたんだ

 恋も結婚も一度は諦めて 一人の戦士となる長い旅路と時間を生きる

 旅の途中で わが同志、君の砦に立ち寄ることにしたよ

 いつか遠い夏 君の紡いだ言葉の数々をたぐりよせながら

 海風を感じていた



 赤い月は身を細らせ 次第に姿を失い

 闇と死に絶えたような静寂が訪れた

 森から吹く風は鎮魂でもなく賛歌でもなく情熱でもなく


 
 時間を経て現れ出た月は もうさっきの赤い月ではなかった

 テープの巻き戻しのような逆順出現でもなく

 淡い靄のシルクオーガンジーを身にまとった
 
 白い妖精のような顔へと姿を変えたのだ



 君はいつか言ったね

 人は何度でも生き直し 何度でも失い 何度でも再び歩き出せると

 死んだ人のことをいつまでも考えすぎてはいけないのだと

 強い口調でわたしを叱った

 怖いぐらいに強い口調で 泣きそうになるくらいに

 

 今私が たたずんでいるのは 太陽の塔の裏側で

 欠けて失われ そして再び満ちていく 今夜の月をしばらくながめたあと

 君もわたしも それぞれに永遠の都を目指しふたたび歩き始めるんだ

 月は魂の中に赤い紅蓮の炎を灯した

 この炎が消えない限りもう夜の森を歩いたとしても道に迷ったりしない

 君の歌声が再びきこえた

 わたしの名を口ずさんでいた

 遠い潮風

 星々の輝きが青白さを増した

 



 
by forest_poem | 2007-08-29 19:01 | 詩 未分類

創作モード炸裂。ファンタージュの森を生く。


by 朋田菜花
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