朋田菜花の「ときには森を抜ける風の音のように」

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Archive 長詩「ある朝、風の中で」



   「ある朝、風の中で」

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 私が、岬巡りを計画したのは
 この白砂の海岸にその日の早朝
 あの人からの伝言が届くと
 私の二階の書斎の窓辺に
 星烏(ホシガラス)がわざわざ伝えに来たからだ

 この街の静かな海岸線には
 自動車も、ジョギング姿も、ウォーキング姿も
 あまり似つかわしくはなく
 何気なくうろついている自転車乗りらしく見えるよう
 それらしい服を見つけるのに半時間を費やした

 一人で海岸線に降り立つのが恐いのは
 まだ足の怪我をひきずっているのか
 それとも未だ癒えぬ別種の傷なのか判断がつかないまま
 銀色の車体に飛び乗り漕ぎ馴れたペダルを踏みしめ
 一路、海へ

 海岸線はゆるく長く弧を描き
 静かな波がよせて返すのみ
 長く続く防波堤の切れ目から覗いては途切れる水平線
 引き潮で出現した浅瀬に白鷺が30羽ほど群れ
 波間には真鴨たちが浮かんでいる

 けれど、波打ち際まで近寄ってみても
 あの人からの伝言はどこにもなく
 ただ、風が吹いているだけだった

 帰りしなにシロバナタンポポの大群生をみつけた
 日本固有種で絶滅危惧種でもあるのに
 この海辺にはまだこんなにも咲きあふれている

 たぶん私もこの花と同じくらいに
 失われそうなものを失いきれずに抱えている
 このままにしておけば、失ってしまうかもしれないのに
 なくす決心すらつかないままに

 今夜また、星烏が窓辺に来たら伝えよう
 もう少し、きちんと日常を日記にでも書いてみると
 迷うことばかりの毎日だけど
 とりあえずこの街で生きていると
 それが、風の中で私が残したあの人への伝言
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by forest_poem | 2007-01-11 06:49 | 詩 未分類
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創作モード炸裂。ファンタージュの森を生く。


by forest_poem
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