朋田菜花の「ときには森を抜ける風の音のように」

forest2006.exblog.jp ブログトップ

即興詩 「命の生まれる森」

b0088524_2531286.jpg


 両手のひらでそっと蛍をとらえたの
 月は高く
 夜はまだ浅かったけど

 泣き出したい気持ちと
 ひどく幸せな気持ちを
 胸に抱えた私は ふと蛍にたずねてみた

 言葉はなぜやさしいの
 言葉はなぜ傷つけるの
 優しい嘘などいらないから ほんとうを教えて

 愛しい人の いまこのとき この瞬間が欲しいの
 誓い合った言葉は 真実なのに
 その美しい瞬間さえも こわそうとする人の手が
 いつも私たちの世界を砕こうとするの

 私の手の中で蛍はぽぅと青く光放ち
 ゆらゆらとゆらいで留まっていたが

 蛍は唐突に 私にこう答えた
 「私たちの恋の季節は短く 短いこの夏のために
  幼生の私はずっと泥の中で生きてきました
  泥の中にも仲間は居たけれど 恋人はいなかった
  泥の中にはたくさんの敵が居て いつも命を狙われた
  だからこそ 今このとき恋の季節の中
  永遠で一瞬の恋に生きる
  愛する分身と出会うために羽ばたくのです」

b0088524_2533050.jpg


 そして蛍はこうも言った
 「私たちはこの黒い固い鎧(よろい)の羽根ではなく
  その内側の柔らかい薄羽根で飛ぶのです
  薄羽根をふるわせながら光と振動で愛の言葉を伝える 
  そしてむつみ合い交合の中で来世へと命をつなぐ

  あなたの愛した人は あなたの柔らかい心と
  あなたの光を知っている人
  そして あなたもその人の柔らかい心と
  熱い光を知っているのでしょう

  この水源の奥に 来世の光が垣間見える森があります
  そこに行けばわかるかもしれません
  月が道案内をしてくれます」

 何がわかるのと尋ねようとしたら
 蛍は つうと飛び立って行った
 月は頭上に輝き 何も答えてはくれなかったけれど
 水源の方向ならわかった
 水の匂いをたどりながら
 夜の森へとすすんで行く

 闇に蛍たちのような光が灯ったように見えた
 しかし それは枯れ枝のような固い枝に
 びっしりとついた
 若い葉だった
 まるで二枚羽根で音をたてたら飛び立って行く蝶にも
 羽根の内側に光を溜めた蛍にも似た若葉たち                    
b0088524_2534538.jpg


 この森の奥に溜め込まれた光を眺めていた
 この光は 生きているものたちが蓄えた光
 太陽と月から紡いだ光
 水源の沼地の深い土壌に深く根をおろし
 巡る季節に風雪を刻みながら
 光を目指し 大地の深奥をめざし

 長い冬を知るものには
 この夏の次の冬も
 その次の春も魂の眼で見ることが出来るし
 その時間のためだけに
 再び泥の世界を生きることも出来る

 「来世をともに」 と熱い口づけをくれた恋人の
 深い心の光が この森の奥で再び私の内部に灯った

b0088524_4385610.jpg


 今日も帰って行く あの人が作ってくれた小さな部屋へ
 私と彼しか住人が居ない小部屋で
 彼が紡いだ音楽を聞きながら
 夜ごとの口づけだけを待っているの
 ただ待つだけの泣きたくなるほどの孤独は
 いとしさの裏返し 
 もう 
 涙こぼしたりは
 しないわ

 部屋に戻ってドアを開けたけれど
 もう真っ暗だとは感じなかった
 あの人がいつもそっと届けてくれる光が
 そこここに点っていたから
 それはあの森で見た光とおなじ
 ともしびだから
b0088524_4435572.jpg


+*+*+*+*

画像はこちらのサイトから利用させていただきました。
http://mottette.blog81.fc2.com/
[PR]
by forest_poem | 2009-06-21 00:00 | 詩 未分類
line

創作モード炸裂。ファンタージュの森を生く。


by forest_poem
line
クリエイティビティを刺激するポータル homepage.excite
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30