即興詩 「命の生まれる森」
2009年 06月 21日
両手のひらでそっと蛍をとらえたの
月は高く
夜はまだ浅かったけど
泣き出したい気持ちと
ひどく幸せな気持ちを
胸に抱えた私は ふと蛍にたずねてみた
言葉はなぜやさしいの
言葉はなぜ傷つけるの
優しい嘘などいらないから ほんとうを教えて
愛しい人の いまこのとき この瞬間が欲しいの
誓い合った言葉は 真実なのに
その美しい瞬間さえも こわそうとする人の手が
いつも私たちの世界を砕こうとするの
私の手の中で蛍はぽぅと青く光放ち
ゆらゆらとゆらいで留まっていたが
蛍は唐突に 私にこう答えた
「私たちの恋の季節は短く 短いこの夏のために
幼生の私はずっと泥の中で生きてきました
泥の中にも仲間は居たけれど 恋人はいなかった
泥の中にはたくさんの敵が居て いつも命を狙われた
だからこそ 今このとき恋の季節の中
永遠で一瞬の恋に生きる
愛する分身と出会うために羽ばたくのです」
そして蛍はこうも言った
「私たちはこの黒い固い鎧(よろい)の羽根ではなく
その内側の柔らかい薄羽根で飛ぶのです
薄羽根をふるわせながら光と振動で愛の言葉を伝える
そしてむつみ合い交合の中で来世へと命をつなぐ
あなたの愛した人は あなたの柔らかい心と
あなたの光を知っている人
そして あなたもその人の柔らかい心と
熱い光を知っているのでしょう
この水源の奥に 来世の光が垣間見える森があります
そこに行けばわかるかもしれません
月が道案内をしてくれます」
何がわかるのと尋ねようとしたら
蛍は つうと飛び立って行った
月は頭上に輝き 何も答えてはくれなかったけれど
水源の方向ならわかった
水の匂いをたどりながら
夜の森へとすすんで行く
闇に蛍たちのような光が灯ったように見えた
しかし それは枯れ枝のような固い枝に
びっしりとついた
若い葉だった
まるで二枚羽根で音をたてたら飛び立って行く蝶にも
羽根の内側に光を溜めた蛍にも似た若葉たち
この森の奥に溜め込まれた光を眺めていた
この光は 生きているものたちが蓄えた光
太陽と月から紡いだ光
水源の沼地の深い土壌に深く根をおろし
巡る季節に風雪を刻みながら
光を目指し 大地の深奥をめざし
長い冬を知るものには
この夏の次の冬も
その次の春も魂の眼で見ることが出来るし
その時間のためだけに
再び泥の世界を生きることも出来る
「来世をともに」 と熱い口づけをくれた恋人の
深い心の光が この森の奥で再び私の内部に灯った
今日も帰って行く あの人が作ってくれた小さな部屋へ
私と彼しか住人が居ない小部屋で
彼が紡いだ音楽を聞きながら
夜ごとの口づけだけを待っているの
ただ待つだけの泣きたくなるほどの孤独は
いとしさの裏返し
もう
涙こぼしたりは
しないわ
部屋に戻ってドアを開けたけれど
もう真っ暗だとは感じなかった
あの人がいつもそっと届けてくれる光が
そこここに点っていたから
それはあの森で見た光とおなじ
ともしびだから
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画像はこちらのサイトから利用させていただきました。
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by forest_poem
| 2009-06-21 00:00
| 詩 未分類